便利なはずのオンライン社会に置き去りにされる声
近年、リモートワークやオンライン授業、SNSによる情報発信が急速に普及し、私たちの生活は大きく変化しました。時間や場所の制約を超え、誰もがアクセスできるはずの「デジタル社会」――しかしその裏で、「聞こえない人」が感じる“新たな孤立”が静かに広がっています。
「Zoom会議の内容が聞き取れない」「動画に字幕がない」「Clubhouseなど音声SNSには参加できない」――聴覚障害者は、便利さの恩恵を受けられないどころか、逆に取り残されてしまう現実に直面しています。
本記事では、オンライン化が進む現代社会において、聴覚障害者がどのような「見えにくい不自由」を抱えているのか、そしてその解決に向けて私たちができることを具体的に探っていきます。
デジタル社会に存在する「音声中心主義」の壁
● オンライン会議での情報取得が難しい
ZoomやTeamsなどのビデオ会議ツールは、発言者が複数いる上に、誰が話しているかが分かりづらいことがあります。また、音声が途切れたり、話者の表情が見えなかったりすると、読唇による理解も困難に。
● 動画コンテンツに字幕がない
YouTubeやInstagramリール、TikTokなどの動画は情報収集や娯楽の手段として人気ですが、多くは字幕がなく、音声依存のコンテンツが大半です。「再生ボタンを押しても、内容が全く分からない」――そんな体験は少なくありません。
● SNSや音声チャットアプリの障壁
ClubhouseやX(旧Twitter)のスペース機能など、音声でつながるSNSが増えていますが、聴覚障害者にはアクセスできない仕組みとなっている場合が多く、デジタル空間でも“対話の場”が閉ざされているのです。
解決策:デジタルアクセシビリティの視点をすべての設計に
■ 字幕・文字起こしの標準装備化
- Zoom・Google Meetの自動字幕機能:会議ツールの字幕ONを推奨
- 動画投稿時に字幕データを添付:クリエイターや企業が配慮として追加することが望ましい
- リアルタイム文字起こしアプリの併用:UDトークやOtter.aiなどの活用も効果的
■ テキストベースでの情報提供
- SNSでは音声に文字説明を添える:画像や音声投稿には必ずキャプションを
- 電話ではなくメールやチャット対応を:企業・学校・役所などが選択肢として用意する
- 自動応答ボイスメニューの代替手段を提供:WebチャットやLINE対応でストレス軽減
■ アクセシビリティへの理解と啓発
- デジタル制作者への教育:「アクセシブルな設計とは何か」を学ぶ機会を
- ユーザー側も声をあげる文化を:「字幕をつけてほしい」とリクエストすることも改善への一歩
- アクセシビリティ基準の強化:公共機関や企業のWebサイトで法的対応が進みつつある
結論:誰もが安心して“つながれる”オンライン社会を目指して
デジタル社会の本質は、「誰もが平等に情報にアクセスできる」ことです。その実現には、音声だけに頼らない情報発信、設計思想、そして受け手への配慮が不可欠です。
聴覚障害のある人々が、会議で発言し、動画を楽しみ、SNSで発信する――そうした光景が「特別なこと」ではなくなる社会。それは、多様性と共生の文化が根づいた社会そのものです。
今あるテクノロジーの可能性を活かしながら、一人ひとりが「見えない不自由」に目を向けることで、“聞こえない壁”を一つずつなくしていけるはずです。オンラインの世界に、リアルなやさしさを広げていきましょう。
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